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遅く起きた朝はカメラと対話す

良く晴れた日曜日の朝だというのに、目が覚めたのは昼でございました。

暗室にこもっておりますと、時間の感覚がなくなるようでございます。

ある写真家の方とお話しさせていただいた際に、暗室はアインシュタインの相対性理論のように時間の流れが変わるとおっしゃっておりました。

その時は時間の流れが変わり、歳と取らないのだと。

相対性理論などは私の矮小な脳では理解もできてはおりませんが、なんとなくそんな感じもする次第でございます。

お見苦しい写真ではございますが、梅雨入りをした合間の晴れた日は長年愛用しているブーツの手入れをしております。

もうかれこれ10年以上履いております。このブーツで海へ、山へ、いろんなところへ共に写真を撮りにいきましたれば、愛着はこの上もないものです。

パイプタバコを燻らせながら、オイルを塗る時間というものは至福でございますね。

いずれパイプタバコのお話もさせていただければと思います。

さて、ブーツの手入れの後は愛用のカメラの手入れとなりましょう。

フィルムカメラとなると長年の疲労がございまして、人間と一緒でございます。

歳をとればとるほど良い味わいが出るものの、そこは悲喜交々、所々にガタも出るわけでございまして。

しかしながら、私が使っておりますライカ クセノン 50mm F1.5 ボディはライカM3

戦前のレンズでございまして、80年もの長きにわたってドイツより来て、縁ありまして、今は私のところで共に生きておるわけでございます。

手入れをしておりますと、カメラやレンズが何を思っておるのだろうかと訝しむことがございます

M3「さてさて、なんの因果か日本くんだりまで来てしまった。何人もの手に渡り、仕事をしてきたが、この若造で最後にしたいものだ」

クセノン「まったくですな。しかしこの坊主はやたらと海で写真を撮りたがるから潮風が堪えることもありますが、こうやって手入れを怠らないところは褒めてやりますがね」

M3「まあこいつは大切に扱ってくれますがね、前の持ち主に至っては裏蓋になんの記念か己の名前を刻んだ奴もいましてね。全くけしからん輩もおりまして。」

クセノン「何十年もの間にいろいろとありましたなあ。ですがこうやってまだ知らぬ土地で写真を撮ってくれるものがいるのも面白いものですな。」

M3「全くです。これからも大切に扱ってくれるならば、仕事をしてやりますよ」

クセノン「余生をこの日本で過ごすことになったのも何かの縁でありましょうし、まだまだやれますかな」

ズミクロン「爺さまたちも頑張るもんだな笑」

そんな話をしているのではないかと想像を膨らませると楽しいものでございます。

と、ここでライカのクセノンについて少しだけお話をさせていただこうかと思っております。

シュナイダー社とライカ社の共同開発によって生み出され、設計はアルブレヒト・ウィルヘルム・トロニエ博士。

今後、フィルムカメラをされることになると必ず名前を聞くことになるであろう方でございます

クセナー、アンギュロン、などという名玉の設計も行なった天才です。(そういう名前のレンズがあります)

スクリューマウントの5群7枚フィルター系は41ミリ。

初期のタイプはコーティングなし、後期には薄いブルーのコーティングがされております。

1936年から1950年の15年間に6190本の少数しか製造されなかった上に、1939年の3年間しか商業ベースで製造しておりません。

1939年から1950年の12年間は後継機となるズマリットの試作品やプロジェクター用、Xレイ用レンズ受注なども含めたものでないかと思われ、1939年以降の番号帯にあるものは希少品であろうと思われます。

発売当初は、フィルム感度が低い時代もあり、自然光で撮影ができる領域を持つハイスピードレンズであったようですが、あまりにも高価すぎたため売れず、現在の市場では見つけることが困難なものになります。

鏡胴の型式も年代によって変わり、初期ではヘリコイド部分のローレットの帯が2本、後期が3本となる。

初期型の中にはAGFAカラーフィルム用の3色分解フィルターの絞り補正マークが入ったものも一部ある。

レンズ周りには海外で販売されたものにはテーラーボブソンの刻印があるが、ドイツ国内で販売されたものには入っていない。故にこのクセノンはドイツ国内の方のようだ。

絞り羽は6角。最小絞りはF9。何故にF9までしかないのかは存じ上げませんが、特徴としては絞るほど固い描写となるようです。

2〜3絞りぐらいがこのレンズの個性を活かせると思っております。

ただ、完全解放での描写は柔らかく、ハイライトが滲み、コントラストは古典的な描写で画面全体にうっすらと光がかかります。空気感を表すことができるので、月並みな表現ではございますが、水墨画のようなグラデーションも楽しめます。

当時の最先端技術とトロニエ博士の知恵が合わさったレンズ。

現在の尺度で考えれば、欠点も多いのかも知れないが、フィルム写真は表現を楽しみ、それを形にすることが主題でもありますので、このレンズは私にとってM3とともに最高の相棒であります。

ちなみにライカM3はMマウントと呼ばれており、クセノンはLマウントでありますのでMマウントのカメラで使用する際は変換アダプターが必要となります。購入される際はご注意を。

長々と書き綴りましたが、また雨が降り出しても煙雨となり良い雰囲気の写真が撮れるやも知れない時候ではございますので、楽しみでもあります。

それではまた。

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